タクシー値下げの影響を経済学の視点で考える
410円タクシー6%増収
本日の日経朝刊で、こんな記事がありました。
日本経済新聞社がまとめたデータによると、7月31日までの半年間の営業収入の合計(タクシー大手4社)が、6.8%増えたそうです。
値下げなのに増収になるカラクリをちょっと考えてみました。
値下げでも増収する仕組み
今年1月30日に東京23区をはじめとする地域で、初乗り運賃(0~1.052km)が730円→410円に値下げされました。
これは「ちょい乗り」需要を狙ったものと言われていますが、かなりの値下げ(44%減)になるのでかなりの利用者増がないと採算が取れないことになってしまいます。
仮に初乗り運賃の距離の利用回数を370万回だったとすると、実に659万回、約1.8倍も利用者を増やさなければいけない計算になります。
しかし今回の値下げは、1.7kmまでの距離は値下げになっていますが、6.5kmを超える距離では割高になるように設定されています。
今回の調査では2kmまでの利用回数は2割の増加にとどまっていますが、6.5kmを超える距離においても約5%増加しているとのことでした。
価格設定を経済学から考える
さて、今回の事例を参考に、価格設定について考えてみたいと思います。
通常、価格が上がると需要は減り、価格が下がると需要は増えます。
ものが安くなると買いやすくなりますので、イメージしやすいですね。
今回、初乗り運賃の730円を410円に値下げしたことになりますので、その利用回数が増えることは予想ができます。
ちなみに価格の変化率に対して、需要がどれだけ変化したかを表す指標を「需要の価格弾力性」といいます。
この値が大きく、値下げに対して大きく需要が増える見込みがある場合に、値下げの戦略が取られます。
しかし、初乗り運賃で80%増えなければいけない需要が、実際には20%しか増えていません。
そして、6.5kmを超える距離では割高になっているので、通常は需要が減ってしまいます。
ところが実際は5%利用率が上昇。
価格が上昇するにも関わらず、需要が増加するものを経済学では「ギッフェン財」といいます。
なぜ、このようなことが起こるのでしょうか?
これは2つのサービスが別々のものであれば、割高になるサービスの需要は下がったと思われますが、距離に応じて価格が変化する一体のサービスであるために、通常とは異なる動きになったものと思われます。
ちょい乗りの需要を喚起して、タクシー自体を利用する抵抗感をなくしたり、値下げのイメージをうまく消費者に与えたり、価格設定の参考になる事例ではないでしょうか。